水軍城、三庄(みつのしょう)と巡って、そろそろお昼時になった。佐島へ渡るには、因島(いんのしま)から佐島のとなりの生名島(いきなじま)へもう一度フェリーで渡らなければならない。でも生名島へ渡ってしまうと食べる場所はないかもしれない。佐島へ行ってしまうと全く無いだろう。ということで、フェリーに乗る前に因島側で腹ごしらえをしていこうということになった。といっても、かなりさびれた商店街で、開いている店もあまりない。
ふと目についたお好み焼き屋さんに入ることにした。尾道文化圏なら広島焼きだろう。岡山出身の私には嬉しい選択だ。
待っているうちに案の定、ふっくらとした、とても美味しそうなお好み焼きが目の前に並んだ。スティーブさんも上手に食べている。
そのときだった。入り口から英語まじりの会話が聴こえてきた。
隣りの席にやってきたのは白人と日本人の夫婦、それに可愛い子供達の家族だった。
こんなひなびた場所で珍しい遭遇。迷わず「どちらからですか?」と声をかける。
「ペンシルバニアです」気の良さそうなご主人が流暢な日本語で答えてくれる。
「妻の里がこちらで、2週間ほどこちらにいます。10年前にはこちらに住んでいました」
「そうなんですか、彼もアメリカからで、私たちは、彼のおじいさんの島を訪ねていくところです。」
「明日、佐島で奉納演奏をするんですよ」
そんなことを言いながらチラシを渡すと「あら!」と奥さんが声をあげた。
「これ、あなたの好きなやつじゃない?」
まさかそれはないよ、奥さん(笑)と思いつつ、説明を続ける。
「インドの音楽なんです。よかったら明日、遊びにいらしてください。」
チラシをじっと見つめるご主人。
「僕のipodには、この楽器の人の音楽がいっぱい入っている」
「この楽器の人?もしかして、アリ・アクバル・カーンとか?」
「そう!その人!!」
「うそー」全員でひっくり返りそうになる。
「なんで?」
「いや、この人、その、まさにアリ・アクバル・カーンの弟子で、凄い、すごい演奏家なの!」
「うそー。さぶイボ立ってきた!」奥さんも叫ぶ。
我々も鳥肌モノだった。なんという出会い。引き合わせ。瀬戸内の島の、ひなびた商店街の、小さなお好み焼き屋さんでまさかこんな。
「ペンシルバニアは田舎で、星を見ながらいつも彼の音楽を聴いているんですよ」という。そして生演奏を聴いたことはまだ一度もないのだとも。
「明日、きっと行きます!」マシューさんは興奮した表情でそう叫んでいた。